日々記録諸々、改め型

日記もどき・更新記録・その他諸々

その2

冒頭のみ、BL未満疑惑小説、試作第二弾。

人外系、現代ファンタジー風味、美形だらけで、超絶面食い(外見に中身と能力が伴ってないと美形と認めない)not美形主人公受けの、なんつーか、それはなんなの?恋愛なの?という話。
外見が好きだから好きというのは、属性が好きだから好きなのか、その人自体が好きだからなのかとかそういう感じのところで葛藤して欲しいわけですよ。味も言い換えればそんなん。
あとフェロモンというか、匂いとかそんなんで、美醜関係なくマタタビのように好かれちゃう受けは燃えですよね、という話。強い人外でないとその匂いを感じ取れないぜ特殊センサー!みたいな感覚で読んでください。強くて綺麗×弱くて甘くて美味(だけど優位)なのってなかなかいい設定だと思うんですよね。うんうん。

つづきからどうぞー (オチは……なんていうか、どうしよう)(再び意見求む!)

 


 

小さなころ、不安に背を押され、母に尋ねた。
「どうしてぼくだけ、違うの?」
 どうして自分だけ、醜いのか、と。
 美しい巻き毛を肩からこぼして、目の前にしゃがみこんだ母が言った。
「お前は特別、甘くてやわいから」
 豪奢な黒髪から、さわやかで甘酸っぱい、柑橘系の香りを感じたのを鮮明に覚えている。
 みにくい、は、みえにくいということ。
「雑魚には見えないの。お前は隠されている」
 わたしたちのちが、かくしてるんだ。
 微笑む彼女の言葉は幼い子供には理解しがたく、なにより目の前の笑顔は美しすぎた。
「特別なんて、やだ」
 母の微笑みは、父のまなざしは、兄の手のひらは、姉のくびすじは、肉親の何から何まで。すべてが美しくて、そのころからそれらがうらやましくてまぶしくて、俺は疎外感にまみれ、惨めさのどん底にいた。「おなじがいい、」
「綺麗なほうがいい…!」
「駄目よ」
 母は容赦なく断じた。
「そんなのすぐに喰われちまう。強くならなきゃ、駄目よ」
 年の離れた兄はとっくに一人前で、三つ年上の姉はお前が生まれた年にしもべを得たのだと。
「わたしたちの代わりに、お前を隠す何かを見つけたら、いい」
「ほんとっ?」
「本当。でも、特別強いのじゃなきゃ駄目だ。それか、特別強くならなきゃダメ」
 ほっそりと白い指先がやわい頬を撫でた。前髪をかきあげ、額に口付ける。
 温かなそれが遠ざかり、にっこりと弧を描くのを、ただ惚けて見蕩れていた。赤い唇が、やくそく、と象ったのを見て、あわてて頷く。
「お前は甘くて美味しいのよ」
 だから、ひとりだけちがうの。
 母は愉しげに、子供の疑問にもう一度答えを与え、踊るように軽やかに立ち上がる。おぼえておきなさい。彼女の言葉を追うように豊かな巻き毛が踊った。
 後にはひとり、俺だけが残される。
 忽然と消えることも、姿の見えない相手に言葉を届けることも、宙を舞うこともできない、醜い自分だけが残される。そのとき、俺は。やっぱり惨めで、さびしかったけれど。
 胸がわくわくと希望に躍っていた。
 その日から俺は、ヒトのあいだで、特別強くなると決めたのだ。



 まぁ、生まれついた身体を乗り換えることは出来ないから、能力のない俺は今をもって醜いままだ(先天的に能力を持たずに生まれた俺は要するに突然変異だったのだと今では納得している。血の成した変異を不自然を残さずに操作するのは母であっても難しいはずだから、いい、というのは大変いい加減な、具体性の欠いた母らしい、流言である)が、満足に自衛手段を持たなかった幼いころとは少しだけ違う。
 動体視力も、反射神経も、ある程度は鍛えられるものだったわけで。
 次々に、避けて着地した先の地面をえぐっていく「爪」を、とんとんトンと回避できる程度には育った。といっても、

「おや、もう行き止まりのようだよ?」
「っは、・…・うるせっ、つの」

 所詮は人間レベルで。
 人外の一族にとっては、俺との追いかけっこなんてお遊戯のようなもんなのだろう。
 どん、と背中を行き止まり、見上げると何階分なのかずいぶんと上のほうまで空が遮られている、立体駐車場のコンクリに押し付けて息を整える。どうしようかどうしようかどうしようか、頭はそれでいっぱいだった。
 目の前では「爪」を勿体つけて畳んだ男がにやにやと笑っている。宙に立つその姿は、なるほど、一族の者らしくそれなりに整った造作で端正だと言える範囲の顔だったが、いかんせん俺の目は肥えている。
 下卑た笑みが鼻についてしょうがない。
「ははっ、うわさは本当だったな。美玖様の弟御は人畜同然にお育ちのようで!」
 吊り上げられた口端が生白い顔に卑しい笑いじわを刻む。こんなやつ、ちっとも綺麗じゃない。
「フン、足元にも寄れない腹いせかよ。分かりやすいったらないな」
 とたん、つりあがるまなじりが、笑みの形のまま開けられた口とおそろいで、能面にひびが入ったみたいにちぐはぐだった。さぞかし高かろう自尊心とつりあった自負を手に、麗しい俺の姉、美玖に逢いにいって、蹴散らされた帰りだろう。姉付きのしもべ・アザミはこういう輩の鼻をへし折るのが得意中の得意だ。そんでもって、その鼻先に見せびらかすように姉の足元へはべるのだ。まったく悪趣味この上ない。ついでに俺の話を負け惜しみの餌として適当に与えてやるのもやめてほしい。迷惑この上ない。今度、もっかい、美玖ねえに告訴してやる。そんでまたやきもち妬かれて嫌がらせされるだろうが、いい加減、俺的にうんざりだ。
 ひくひくと引きつる、見せ掛けだけが整った、醜さにはうんざりなんだ。
「しかも、くっさい。くどい匂い」
 フェロモン系の香水を濃くしたみたいな、感情を高ぶらせると香る、独特の体臭に顔をしかめた。
 うんざりだ、うんざり。何度目だろうこのパターン。
 どうしてもよわっちい自分にもうんざりで、ため息を吐きながら、しっしと鼻先の空気を払う。出来るだけ吸い込みたくない。
 怒り狂った男は、すっかり地金を現して、嫉妬と憤怒を顔中に塗りたくって、俺を切り裂く「牙」を振り下ろした。たぶん、わめいてる金切り声は、しねぇええええというようなことを言っていた。


 うんざりだ、うんざり。何度目だろうこのパターン。
 本当だったら、顔すらも目の前のこの男に劣り、能力も伴わない俺は今すぐにでも消えてなくなるべきなのに。
(俺は醜さを疎んでいる)


「 と お る 」

 金属音に似たなにか。俺は目をつぶったまま「牙」が砕ける音に混じって、聞こえるそれに耳を傾けた。目を開ければきっと、赤い血の海で、ヒトで言う骨同然の「牙」を失い倒れているだろう男の姿なんて、見てしまうのも嫌だった。けれど瞼を閉じたままなら、強い強いにおいが、血の錆くさい臭いをかき消してくれる。
 そっと、何かが頬に触れた。

「とおる」

 甘いにおいだった。実を言うと、これだけなら、すごく好きだ。果物みたいな自然なにおい。母さんの柑橘種に似た香りとはちがう、柔らかくてじんわりと甘い、だけど後味がいつまでも口にこびりつくみたいな……ざくろを噛み砕いたときみたいなにおい。
 頬を包むみたいに大きな手のひらを感じた。右側だから、左手だな。何か言いたげに軽くこすってくるけれど、それを無視して目を瞑りつづけていた。だってもう、情けないし、うんざりなんだって。
「なんで来んだよ…」
 もう来るなっていったのに。
 右手に引き寄せられるのが分かった。
「おまえの血を誰かに許したりしない」
「………」
 落胆じゃない。失望でもない。でもなんなのかは分からない何かが、俺から抵抗する気力を奪っていった。
 柔らかい唇の肉がぷちりと破かれるのを許してしまう。
「っ、…痛い」
「あまい」
 それ以上傷つけることはないように、静かに滲んだ血を舌が舐めとっていく。両手が、酷くうやうやしい手つきで、愛でるように頬から耳の後ろへと滑っていった。
「……美味い」
 うっとりとつぶやく息が間近に感じられて、かっと頭に血が上る。なにを思う隙もなく、ぐっと反射のように遠ざけてしまった。
「とおる」
「もう触るな。……助けてくれて、ありがとう」
 一応、礼は言う。うつくしくも強くもなれない自分が厭なだけであって、進んで死にたい訳じゃないから。家族に愛されている身体を、害(そこな)いたい訳じゃないから。
「礼など。……とおる、いい加減に」
「言うな! 聞こえない、なんにも聞かないっ」
 わめいて、足元の血に気を付けつつ、後ろを見ないように駆け出した。顔を見たらまずい。何度だって言うが、俺の目は肥えている。かなりの面食いなのだ。
 しかし、能力者を非能力者が振り切れるわけもなく、こいつが俺の血が止まるまでそばを離れるはずもなく、追いかけっこは自宅まで続いた。


 梓真は、自称・俺の婚約者だ。
 勿論、法律上同性との結婚は不可能なので、ただの自称だ。ただ。ただなんともやりにくいことに、両親公認の、自称・俺の婚約者だ。


「いい加減、公式にしてあげればいいのに」
「まさか!」
 他人事丸出しの美玖ねえのセリフに、息巻いて返す。自分だって自称・恋人のアザミを十数年以上しもべとして以外に扱わないくせによく言う。しかし奴はしもべでも十分幸せそうなので、むしろそれがふさわしい。時々落ち込んでるが、それもまたザマぁ見やがれである。
 俺の部屋に訪れるたびに、恋人として反対しては、下僕として意見を却下されるアザミを、姉はなんとも思っていないのだろうか。なにか思うところがあるから、俺に梓真について、言うのだろうか。真面目に考えていると、それを台無しにすることをぽわぽわ言い出した。
「とおるが梓ちゃんはべったら、きっとすっごく、いい匂いなのに〜」
 思わず想像してしまい、うぇっ、と顔をひしゃげる。なんだそれ、と素で思う。
 綺麗なものは単体で観賞すべきだ。これ、半ば持論。綺麗なものの二乗は歓迎だが。
 唇を舌でぬぐう。そろそろかさぶたが完全に固まる。いつ、帰らせよう、とぼんやり考えた。
 美しい男は、ただ、その美しさよりも、俺に対する行動で、俺の息を詰めさせる。ときどき俺を殺すつもりなんじゃないかというほどに、俺の息の根を止めるかのごとく、振舞う。
「梓ちゃんのこと、嫌いなの?」
「あんなに綺麗な奴、ほかにいない」
 憎むことは出来たとしても、嫌うことは出来ないだろう。
「嫌いじゃないなら、いいじゃなーい」
 ふと、姉に視線を寄せる。甘い声に反して、りんと伸びた姿勢。柔らかに動くくせ、指先まで洗練された厳格さで、まっすぐな髪とまっすぐな視線は冬の女王のように優美だった。
「美玖ねえ」
「なぁに?」
「俺のこと、愛してる?」
「もっちろーん」
 つ、と伸ばされた指が俺のあごを取って、ひょい、とあげる。 「あいしてるわ、」
 俺の家族は、俺に口付けるのが好きだ。
「やわくて甘くて、美味いから?」
 さら、と直毛が、奇跡のように美しい首すじから滑り落ちる。まつげが上向いて、きょろり、と青みがかった眼球が動いた。
「卵が先か、鶏が先かだわ。でも愛してることに変わりはない」
 にやり、と皮肉に笑んでみせても、姉の美しさは損なわれず、むしろ裏のある深みを見せた。
「だって、とおるがやわくて甘くて、美味しいのは、死ぬまで変わらない。とおるの一部だもの」
 とおるこそどうなの、と面白そうに目を覗き込んでくる。
「私が、とおるの目に、きれいだ美しい、と映るから私のことを愛しているの?」
 俺は口を閉じて姉を見上げ、そして姉の頬に口付けた。それが答えだった。
 ふふふ、と姉は勝ち誇ったように、微笑んだ。

「ね、梓真くん。あなたはどうなのかしらね?」
 俺に愛されていることを勝ち誇るように、梓真に微笑んでいた。

【いっそ続けようと思う】

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