日々記録諸々、改め型

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人外のお話3+

現代ファンタジー風味フォも小話。
これ と これ の続き。

同級生視点。ちょっと長くなる?(←バカ)
まだ書きたいこと書けてない……

(6/25追記)
つんつんしすぎて好意が伝わらない空回りな子も、まぁ、嫌いじゃないです。実際いたら迷惑だがな! それにしてもとおるが出てこない……な。だから一緒にしたった。でも普通に人外じゃないやな。

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 ルールに制限された不自由さの中で、定められた勝利条件のため力を尽くすことを教えてくれた。テニスが好きだ。人の間で生きていく面白さを、解りやすくしてくれたから。


 * * *

 がたん、と音をたててロッカーの戸を開ける。戸の裏に貼られた鏡が、浮かれ弾む心のまま弛みきった表情を容赦なく映しているのに気が付いて、少し慌てた。努めてそれらしく顔を引き締めてみるが、ロッカー上部に保管してあったラケットを下ろして「それ」用にガッドを張りはじめる頃には鼻歌が漏れていた。
 刺々しい生意気な声が、後ろから飛んできてそれに気が付く。

「鼻歌なんて。いい気なもんですね、エースの人は」
 紅白戦で優勝したくらいで満足してるんですか?

 鼻先で嘲笑うように音を立てる、この後輩は本当にオレのことが嫌いみたいだ。普段なら、この、いちいち突っかかってくる喧嘩腰の態度に、世間を知らない、円滑な人間関係とか周囲に対して与える自分の印象とかを全く気にかけない子供っぽさにイラッと来るところだが今日は全然気にならない。なんでかって?
 持参したケースに手にしたラケットを収め、自分のスポーツバックを抱えなおして、オレは奴へ満面の笑みを向けた。
「な、なんですか?」
 いつもなら有り得ないそれに後輩はぎょっとしている。オレたちに友好的な態度なんて青空に雷が走るくらい有り得ない。だけど、オレの心は弾んでいて、なお逸(はや)る。
 自覚がある。最高に機嫌がいいのだ。
「じゃ、五十嵐、オレ行くところがあるから!」
「はっ!?」

「キャプテーン! いつものヤツ、行ってきまーす!」

 おー、きをつけてなー 気のいい先輩の声を背中で聞きつつ片手を振って、しんっじらんねぇっ!とわめく声は都合よく無視して。心と同じく、弾む足どりを駆け足に変えて、オレはがちゃがちゃと二本のラケットを抱えて走った。
 上林(かんばやし)とおるの待つ、約束のコートへ。



 初めて打ち合ったのは体育の授業で、だった。
 体育教師は顧問ではないものの、体育系部活動に従事している生徒を見過ごすわけもなく。例によって例のごとくオレたちテニス部員は模範演習へ駆り出されて忙しかった。部活動にするだけあってテニスが好きだから、最初はそんなにつらくはなかったが、休憩なしであっちのコートへ、こっちのコートへ堂本(体育教師)が移動するたびに呼びつけられるのはさすがに疲れた。
 もしかして俺、目ェつけられてる?
 ちょっとへこたれて水分摂取を理由にテニスコート脇へ逃げ出したときだった。

「……はぁ、」
 ざぶざぶと蛇口を全開にして水をかぶる。そうすると火照った体温が少しは鎮まる気がして、タオルもないのにびしょぬれにしてしまった頭を体操服で拭った。しんどい。テニスだけ、テニスだけ出来たらいいのに。溜息をついて張り付いた前髪を退けたときの事だった。
 ティン…、ティン。
 ガッドに跳ねるボールの音。驚いて顔を上げると、ぎょっとするぐらいすぐそばに、指定の短パンじゃなく緩いジャージを着た、やる気のなさそうな少年が洗い場にもたれて立っていた。
 手に持つラケットと無造作に上下しているボールは、オレが蛇口にしがみついた時、そこらへ置いたものだった。いつの間に。金属製のラケットは取り上げられたときに音をたてたはずなのに、全然気が付かなかった。それぐらい気配を感じなかった。まじまじと見ても特に見覚えもない、隣のクラスの奴だろうか。
 つまらなげに、だけど一定のリズムで、一定の高さにボールをあげるそいつは、オレが見ていることに気付いているだろうに一瞥もないまま言った。「なぁ」

「これの、何処がそんなにいいんだ?」
「え?」
「さっき言ってただろう。テニスだけ出来たらいい、って」

 かあっと顔に血が集まるのを感じる。聞かれていた。はずかしい。
「そんなにいいものかと思って」
「そんなにって……別に、スポーツだし」
 身体を動かすことはそれ自体が気持ちいい。自分が狼狽してぶっきらぼうになっていることに気が付いて、だけど相手にからかうつもりがないらしいことも伝わってきて、オレはどきどきと乱れる心臓をなだめて考えた。訊かれていること、テニスのいいところ。好きなところ。
「強くなるのは、楽しいし……」
 試合に勝つのは嬉しい。だけど、……本当に? 見ず知らずの奴にやっかまれたり厭なことを言われたり、その所為で辛いことがある。
 オレは、どうして、テニスが好きなんだっけ?
 黙り込んだオレを不審に思ったのか、興味がそそられたのか、彼はぴたりとラケットの上にボールを停止させてオレの方に向き直った。「強いの?」
「……へっ?」
「あんたは強いの?」
「……一応、大会に出てるけど」
 うちのテニス部は強い。県大会で優勝を争うぐらいには。というか、それより、今の……とオレは目の前のラケットに釘付けだった。今のって。

「見たい」

 顔を上げた先、あるのは平凡な少年の顔だけなのに、オレは何故だか、どきっとした。
 爛々と光ったわけじゃないのに、奇妙に気圧されるぐらい、その眼差しはまっすぐとしていて正直だった。強いのが見たい、と本当に望まれていた。知らず、口が勝手に答えてしまう。
「いいよ」
 望んだまま告げていた。

「試合、しようぜ」

 オレは、戸塚。戸塚憲次(ケンジ)だよ。
 そいつはきょとんと瞬きをしたあと、あぁと納得した様子を見せて、差し出した手を握った。可笑しそうに笑ってから上林は言った。
「おまえ、帰国子女だろう」
 教える前から見抜いたのは彼が初めてだった。

 * * *

 戸塚憲次ほど期待外れな人物はいない。五十嵐亨(トオル)は頑なに、そう考えていた。
 かつてジュニアハイクラスで彼を知らない人間はいなかった。幼い頃から本場でテニスをやっていたと言う帰国子女のその少年は、テニスをする子供にとって墜落してきた彗星のように劇的で、非日常な存在だった。試合のスコアをなぞっては、どんな選手だろうか、騒ぎ立てるテニス雑誌をめくっては、どんなにか凄いプレイをするのか、と五十嵐も例に漏れず憧れた。しまいには進路まで左右された始末。
 戸塚憲次ほど期待外れな人物はいない。彼ほど闘争心がなく、帰国子女らしくないテニスプレイヤーもいないだろう。

「なんなんすかっ、ありえねぇっ!」
 あの日本人気質! 初めて実際の彼を見つけた時も、思わず叫んでいた。横に立っていたガタイが良すぎておっさんにすら見える部長が「そりゃあ、戸塚は育ちは向こうでも御家が純日本製だからな」と呟いていたのを覚えている。
 彼は曖昧な笑顔が得意だ。強い感情をぶつけてくる対戦相手に、戸惑ったように微笑むのが。
 そりゃあ、今日のようなはっきりした喜色満面の、そんな笑顔は珍しいが、部活動を笑顔で誤摩化そうとかそう云う卑怯さは許せない。
 今日こそは、昨日の紅白戦のように姑息に立ち回った手抜きのものではなく、全力で、息を乱す程に能力を引っ張り出してやると思っていたのに!
「まぁまぁ、五十嵐、拗ねんなよー」
「拗ねてません! 怒ってんですよっ」
 聞き捨てならないことを訂正しながらも、怒りの矛先を責任者へと向ける。なんだよ、いつものヤツって! そんなんで部のエースのサボタージュを堂々と許可すんなや、このおっさん!
「あの人いったい何処行ったんですかっ エースがテニスもせんでフラフラしてる場合かっ」
「や、いちおテニスしに行ったんだが」
「つーか、キャプテンも場所知ってんなら連れ戻しに行きますよ!」
「あー? つってもなぁ」
 おまえ落ち込むんじゃねーかなぁ?
 がりがりと考え深げに首を傾ける年長者は、うーんと唸る。五十嵐は急に、怒りが焦りになって胸をじりじりとさせるのを感じた。
 いつだって期待外れの戸塚憲次。かつてのキレを見せないエース。……手加減ばかりで真剣に向き合いもしない五十嵐のライバル。

「ん、でもま、勉強にはなるか」
 いっそ全員で行くべ。まるで悩んでたのがポーズだったかのように、むっくりした体格に似合わない素早さでキャプテンは『試合人員』を集め出す。残る部員たちをマネージャーと顧問に任せて、まるでちいさな遠征のように彼らはコートを出た。

「紅白戦後の戸塚の習慣なんだよな」
 その言葉に焦げ付いた胸の奥で、また、闘争心とは違う炎が灯ったのを、五十嵐は努めて無視しようとしていた。


【まだ続きます】
鉛筆手書き落書きとおる

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